その後のその後のゲタ吉
6-2
スズキキヨミ

Vol.11 「 ビリーズ・ウンコ・キャンプ 」

 俺は運が悪い。
トイレが無い所に限ってウンコがしたくなる。
今のは別に運とウンコをかけたワケでは無い!
決して無い!!
断じて無い!!!

とにかくトイレを探さねばならない。
周りを見渡しても、クリスマスイルミネーションを装飾した家庭ばかりだ。
いつから、こんなもん流行り出したんだ。
『通行人の方にも楽しんでもらおうと思って』
月9ドラマだけは欠かさなそうな主婦が、そう言って悦に入っている姿が目に浮かぶ。
そんなもんより、オマルの一つでも庭先に置いてもらった方が、通行人の俺には、ありがたいぜ…。
今の俺のウンコの状態…。
黄金伝説で、よいこ濱口が素潜りで見つけた、ウツボのような…。  穴から、少し出たり入ったりを繰り返す、まさしく、あんな感じだろう…。

MK5 ― マジでクソする5秒前。 古すぎた…。
どうせ使い道は無いけど。 何せ5秒前だ。言っている余裕も無いだろう。
しかし、ウンコ…。漏らしてしまったらどうしよう…。どうなってしまうんだ? 一体、俺は…。

小学校の時のキャンプでの話だ。
昼ご飯前、先生からの注意事項を聞く為に全員が体育座りで集まった。
突然、先生の話に集中出来ない臭いに、全員が襲われた。
この臭いは…。
間違いない!ウンコだ!
先生も早口で話を切り上げていた。
臭がっていた!先生なのに!
バレバレだった!先生なのに!

先生が居なくなってから、生徒達が口々に『 ウンコ臭い!』と臭いの元を探し出した。
それは、簡単に見つかった。
なんと、学級委員長の女子児童の上着に、べったりとウンコが付いていたのだ。
しかも胸や肩に何箇所も…。
一体、どんな態勢でウンコしたら、そんな所に付くのか?
誰もがそう思った。
学級委員長は勉強もスポーツも成績優秀、リーダーシップも、かなりのもの。
お父さんは医者で、ニューヨーク生まれのバイリンガルだ。
そんな学級委員長にウンコが何箇所も、べったりと付いている…。
「あ!ウンコが付いてる!」一人の遠慮の無い児童が、学級委員長を指さした。

「 王様は裸じゃないか!」裸の王様の一場面を思い出した。
周りの大人達は、空気の読めない子供にドンビキしただろう。
気遣いが、台なしだ。小6にして、裸の王様を別視点から見る事に成功した俺は、次の瞬間、信じられない光景を目にした!
学級委員長は「キャーッ!何コレー!」っと、素手でウンコを拭い出した。
「 ウンコじゃないよ!コレ、ウンコじゃないよ!」
魂の叫びだが、間違いなく、ウンコだ。
ニューヨーク生まれなのに、コエダメに落ちた田舎の子供のようになってしまった。
ギャラリーが押し寄せ、手に付いたウンコを学級委員長がどうしたか見えなくなった。
俺の次の興味は既に、昼ご飯に向いていた。

… 昼ご飯はカレーだった…。

カレーは子供達の大好物だ。給食でもカレーだったら、テンションが上がる。
だが、今回ばかりは誰一人、喜んでなかった。
静かな昼ご飯を終えた後、また先生からの話があった。
また、体育座りして聞いた。
先生が「解散!」と言った直後、一人の男子児童が盛大にリバースした!

ウンコの次はゲロかよ!

だから、子供の集まりは嫌なんだ! 子供の俺は静かにキレた。

その男子児童は、後にヤクザになって、公に言えない大活躍をするのだが、当時はごく普通の、 ハリスガムと超合金をコレクションする子供だ。
リバースされたゲロの中から、ジャガ芋がことごとく、丸ごと発見された。
先生の「噛まないからだ!」と叫ぶ声が、ゲロ酸っぱい空気の中に響いた。
男子児童は昼ご飯の時、学級委員長の隣でカレーを食べていた。
出来るだけ早く、その場を離れたかったのだろう…。
ウンコの臭いをアリーナで嗅ぎ、カレーを食べる…。
世界で、こんなベタな経験をする人がいるだろうか?
ヘビーな状況を、たった一人で切り抜けた男子児童は、険しい極道の世界も、生きていけるのだろう。

そんな事を考えながら、俺はトイレを探し続ける…。

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