その後のその後のゲタ吉
1-1
スズキキヨミ

 Vol.1 「(● ●)」

 人は誰でも夢を持って生きている。
こんなハゲ散らかした俺も例外ではない。

きっかけはドリフだったか? 定かでは無いが、子供の頃から人の鼻の穴に指を突っ込みたくて仕方なかった。  昼寝をしている近所のばーちゃんに鼻指して、親父にチクられ、こっぴどく怒られた…。
ばーちゃんは10数年前に死んでしまったが、この事を思い出すと今だに『チクんじゃねーよ!ババァ!』と怒りが込み上げてくる。

だが、人に指を突っ込まれて怒らない人はいないだろう。
身内ですら、こうなのだ。
シブがき隊なら最高の笑顔で『100%… SOかもね!』と言うだろう。3人の断言は強力だ。
俺が鼻指をする理想の相手は怒ったり、殴ったりせず、民事だ、刑事だと言わない人だ。だが、そんな聖人はいない。
最近、鼻指の欲求が強くなり、眠れない夜が続いた。
『こんな時にド●えもんがいたならなぁ』
安直にこう思ってしまうのも、小学生の頃からだ。
実際そんなにドラ●もんを見ているわけではない。覚えている道具だって、タケコプター、どこでもドア、タイム風呂敷くらいだ。
あ、テストの前にやたらパンを食った話!暗記パンだっけか?それ今、思いだした!

いかん!今はドラえ●んの話じゃない。
大体ドラえも●に、人に鼻指したいと相談して、どんな道具を出してくれるというのだ。
そこで、俺が思いついたのが、限りなく人の形をしたものを対象にする事だ。
そして偶然、手頃な像を見つけた!
X'mas直前、これは神様が俺にくれたチャンスだ。
しかし、いざ目の前に立つと、像とはいえ人型だ。やはり緊張する。
辺りを見回し、人がいない事を確認し、そっと手を伸ばす。
像と目が合う…。
躊躇してしまった。
頑張れ、俺!自分を信じろ!俺ならやれる!必死に自分を奮い立たせる。
長年の夢を叶えるチャンスだ!今だ!ナウ!!!

…その瞬間は、あっけなくやって来た。
わずか数センチ、腕を伸ばすと2本の指に冷たく、固いものがあたった。
いつのまにか閉じていた目を開ける。
像の鼻の穴に、俺の指が2本、ぶっすりと入っていた−。

家に帰っても、なかなか実感がわかなかった。
像にハードルを下げたとは言え、夢を叶えたのだ。
相手は、俺に指を鼻の穴に刺されたまま、笑顔だった。
理想通りじゃないか?そう!とうとう俺はやったのだ!
小さな夢でも、叶えると以前の自分より成長したと思えるものだ。
それが、たかが鼻指でも…。

2度目の鼻指は、落ち着いていた。
像の隣に、帽子から足元まで全身ベージュのおばちゃんが立っていたが、気にしない。
鼻指にもギャラリーは必要だ。
それに、俺が興味あるのは像だ、ベージュのおばちゃんではない。
さっと指を2本立て、力強く腕を伸ばす。
グイっと鼻の穴の確かな手応え。
記念写真まで撮る余裕っぷり。
う〜ん…クール!
自分を誉めた。
眠れない夜はもう来ない。 今、俺は充実している。


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