その後のその後のゲタ吉
3-1
スズキキヨミ

Vol.5 「 ベロベロで右寄り 」

 コンビニでよく見る、じーちゃんがいる。
ズボンの右足側を、おしっこでびちょびちょにしているのを見た事がある。
『じーちゃん、右寄りかぁ』
失禁した大人を見ても、こんなに冷静なのは、このじーちゃんが、そんな人だからだ。
そんな人と言うのは、じーちゃんは、いつもベロベロに泥酔している。
朝からコンビニで紙パックの『鬼ころし』を買い、夜は近くのスナックで飲み、帰りにコンビニでまた、紙パックの『鬼ころし』を買う。
いつも同じ服を着ていて、シャツの首回りが焦げ茶色になっていて、袖口は黒くパリパリになっている。時々、ゲロ酸っぱい臭いがする。
歯はほとんど無い。
昭和丸出しのアパートで一人暮らしをしている。
そのアパートの階段で寝ているのを見た事がある。


先日の深夜、コンビニにスナックのママと来ていた。
スナックのママは、クリスタルキングのアフロで声の高い方の人に顔が似てて、ベビースターラーメンみたいな髪をしている。
光沢のある黒の『スパッツ』に、ラメのヒョウ柄の靴下を履き、全面にヒョウの顔が描かれたニットをコーディネートしていた。
このママは店の客とデキており、時々家に鍵をかけ、旦那を閉め出す事がある。
そんな夜は、旦那は近くの別の居酒屋や、スナックをハシゴして、店内で暴れて頭や肩に、イカ納豆や、もずく等を付けていたりする。

で、深夜のコンビニで、そのベロベロで右寄りのじーちゃんと、クリキンでベビスタのママが一緒だった話だが、じーちゃんが相変わらず、 『鬼ころし』をレジに出すと、『もう、やめんか!あんた!お金無いやろ!』とママに怒鳴られていた。
更に別の日、今度は昼近くにコンビニの前で、ベロベロで右寄りのじーちゃんが、地面に小銭をばらまいていた。
地面にはいつくばり、必死に拾おうとするのだが、なにせベロベロで右寄りだ。
なかなか、小銭を掴めない。

『あんちゃん、助けてくれ〜、代わりに拾ってくれ〜、一割やるから〜』と懇願してくるので、1割貰う気はさらさらないが、気の毒に思った俺は、全部拾ってやった。
10円玉と、5円玉と1円玉しかなく、集めた総額は\83だった…。


…ベロベロで右寄りのじーちゃん…。


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