その後のその後のゲタ吉
5-1
スズキキヨミ

Vol.8 「 Cutting Edge 〜鋭利な竹 」

 いい天気が続いている。
晴れた日は、犬を連れて歩いている人をよく見かける。
俺もかつて犬を飼っていた。
大型犬だったので、俺はいまいちリードを持てず、おかんが持って犬の散歩をしていた。
家からかなり離れた所で、おかんが『おしっこをしたい』と言い出した。 『我慢しろ』と俺は言ったが、おかんは段々と、バスケのディフェンスみたいな姿勢になってきた。こんな奴と家まで一緒に歩くのは辛い。
犬の小便のついでに、おかんも小便させる決意をした。
おかんは『ありがとう!』と言い、相手のいないディフェンスをしたまま、空き地の奥に進み、高く伸びたススキの陰に入った。
ポジション確保が迅速で的確だ。
かなり、野しょんになれている印象を受けた。
仕方ないので、犬と遊びながら待つ事にした。
野しょんをするような母親に愛情は無いが、犬には無償の愛を捧げられる。
しゃがんで犬を撫でようとした時−。

  『痛い!』

 叫び声が聞こえた。
俺と犬は、おかんが消えたススキの群生の奥を見た。 犬に引っ張られながら近付くと、おかんが尻を出しながら『痛たた…』と顔をしかめている。
うんざりしながら状況を聞くと、パンツを脱いで尻を降ろしたら、何かに刺さったのだと言う。
傍に斜めに刈り取られた竹があった。切り口に血が付いている。
徹底的に醒めた俺は『おしっこ済んだ?』 と聞いた。
『びっくりして全部出た』と痛みに顔を歪めたまま答えてきた。
『じゃあ、さっさとして!』徹底的な上から目線で、冷酷に命令を下してやった。
家に着くまで、おかんは『痛い、痛い』と言い続けた。
近所の人達がその異様な光景に口々に『どうしたん?』と声を掛けてくる。おかんはその度に、事の成り行きを説明する。
俺はシカトし続けた。
犬は全く事情が分からず、尻尾を振っている。
どんな時も可愛さを失わない、ナイスドッグだ。

結局、おかんは通院する事になった。
完治した途端におかんは、空き地の所有者を調べあげ、その地主が竹を切った目撃証言まで取った。
そして、その地主を逆恨みした。

そんなおかんは夜の一人歩きを極度に怖がる。
理由はレイプされるかもしれないからだ。


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