その後のその後のゲタ吉
5-2
スズキキヨミ

Vol.9 「 忘年会 」

 世間は忘年会シーズンだ。
社会人を長くやっていると、誰でも忘年会での凄まじい思い出が1つや2つあるだろう。
俺の場合はこうだ。

忘年会での酒の宴が終盤になった頃、ほぼ全員がかなり酔っていた。そろそろ2次会に移動しようかとなり、1コ下の女子社員がトイレに行く為に立ち上がった。 2、3歩進んだところで足がもつれ、バランスを崩した。
女子社員はとっさに側にいた部長に手を伸ばした−。

−その時、時代は動いた!

自分の目を疑った。
回りにいた数名も目を見開いていた−。
部長の髪が丸い形で、頭から離れていた…。
離れた毛は、女子社員の手に握られている。
瞬時に、視覚からの情報処理能力が働かなかった。
部長の頭は、磯野波平モデルだった。
回りの小数の者達が、情報処理を終了した刹那、女子社員はヅラを部長の頭に戻し、トイレにダッシュした。
幸い、泥酔していた部長は気付いていなかった。
回りも何事も無かったかのように2次会へ向かう用意をしはじめた。
ヅラを掴んだ女子社員は、翌年早々に退職した−。


別の年の忘年会は、温泉で一泊だった。
宴会が終わって、大半が2次会のカラオケに行ったが、俺は久しぶりの温泉に、ゆっくり入っていた。
温泉から上がり、ファンタを買おうと自販機の前にいると、慌てた様子の若い女子社員に会った。
同室の主任がいないと言う。
主任は俺より、ちょっと年上の女性で、頭が良く、モデルの様なスタイルだが、気取った所が無く、サバサバした性格で、社員から人望がある。
その主任が見当たらないと言う。
『カラオケに行ったんじゃなくて?』と聞くと、女子社員は首を横に振り『行っているコに電話したけど、来てないって』と返ってきた。
後から一人で行くってのも考えにくいので、『温泉は?』と聞いたら、さっき見てきたが居なかったと言う。
後はトイレくらいか…。部屋のトイレには居なかったと言うので、館内のトイレかな…。と言った。トイレなら俺は協力したくても出来ないから、報告を待つ事にして自室に戻った。
しばらくして、部屋の戸をせわしなくノックする音が聞こえた。
同室の社員は、みんな爆睡している。
戸を開けると、テンパった女子社員が俺の腕を掴み、ちょっと来て!と館内のトイレに連れて行かれた。
『主任、見つかった?ここ?』と聞くと、頷いた女子社員は、耳を疑うような事を口にした−。

その時、時代は動いた!

−主任は床に座り、便座に顔を乗せて爆睡していた。
それだけなら、普通のヨッパーだが、とんでもないオプションが付いていた。
主任は尻を出し、ウンコをトイレの床にしていると言う。
驚いた俺は、咄嗟に『繋がっているのか?』と聞いた。
女子社員は『繋がっている』と言う。
俺は絶句した。あの優しくて、頼りになってかっこいい、主任が…。
どうしたらいい?手伝って!と女子社員が詰め寄って来た。
手伝えと言われても、主任はケツ出してるし、ウンコが繋がってるし、女子トイレだし、俺に出来るのはトイレから出て来た主任を、部屋に運ぶ位だよ、と答える。
女子社員は、ケツ拭いてパンツ穿かせて来るから、ここで待っててよ!と先輩の俺にきつい口調で命令し、トイレに消えた。
『あいつはSだな』と思いながら、暫く待っていると、女子社員から『来て!』と中に引っ張られた。
確かにトイレ内はウンコの臭いが充満していた。
入口に1番近い個室に主任が便器を抱えて、へたり込み、爆睡していた。
傍にウンコがあった。動揺したが、誰かが入って来たらマズいので、速やかに行動を開始した。
二人でウンコを踏まないように主任を抱えて部屋に戻した。
そして、この件は闇に葬り去った。
翌年、女子社員は退職、更にその翌年には主任が退職した。

そして、俺は忘年会が嫌いになった−。


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