その後のその後のゲタ吉
6-1
スズキキヨミ

Vol.10 「 猿の惑星 」

 今日の志村動物園は、猿がよく出ていた。

猿は結構、凶暴な動物だ。
小学生の頃に身を持って体験している。

3丁目に『 はまちょう 』というあだ名の、ちっちゃいおっちゃんがいた。
はまちょうは、酒が大好きで、まだ飲み屋が開かない夕方4時頃から、ワンカップを持参して近所の魚屋で刺身を買って、それを肴にそのまま店内で呑む。
そこで夜を待ち、飲み屋で呑んで夜中に帰宅する。
自宅と隣家の間にある電柱に、喧嘩を売る事があり、それが一躍彼を町内の有名人にした。
ちっちゃいおっちゃんが、高い電柱に『 黙っとらんと、何か言え!』『 おんどりゃ〜、やるんか!』等と怒鳴る姿は、 この町内に生まれたなら一度は見ておきたい、レベルの高い天然のコントだった。
シラフの時は無口だが、呑み出すとスター扱いされていた。

はまちょうは元漁師で遠洋漁業に出ていた。 最後の航海の時、海外から一匹の猿を連れて来た。
猿の名前はマチコと言った。
綺麗な色で、くりくりの目と長い尻尾が可愛いかった。
近所の子とはまちょうの家を覗くと、マチコはソファーの上をトランポリンみたいに跳ねていて、俺達をトリコにした。
マチコは普段家の中に居たが、時々、玄関の横に設置されたオリに入れられていて、その時は俺達でも近くで見れた。  俺は近所の花子ちゃんとマチコに会えるのを楽しみにしていた。
マチコがいないかと、オリを覗いては喜んだり、がっかりしたりしていた。
花子ちゃんは、タワシみたいな髪型をしていた。

ある日、リカちゃんとジャンプを買いに行く途中に何故か、かじったリンゴが落ちていた。
『マチコにあげよう!』と言う事になった。
マチコが食べているとこを見た事がない。
きっと可愛いハズだ!
確信していた。
オリの前に行くと、マチコがいた!
俺達を見つけるとマチコは柵を両手で握り、リンゴを見つけて興奮しだした。
リンゴは花子ちゃんが持っていた。
花子ちゃんは、マチコにそっとリンゴを差し出した…。

  ガチャッ…。
マチコがオリを開けて、跳んだ!
何が起きたか解らなかった。
…?……あれ? 鍵は?


 キーッ!ぎゃーっ!
マチコと花子ちゃんの悲鳴が入り乱れる。
マチコが花子ちゃんの頭に噛み付いていた!
ウニに噛み付いているようだった。

『 いってぇな!このサル!』

花子ちゃんは、リンゴを投げ捨てた!
目がマジだ…。
花子ちゃんは、プロレス好きの男兄弟の中で育っており、毎晩ファイターとしてのスキルを磨いていた。
好きな漫画は「吹けよ! カミカゼ」だ。
実際に兄はレスラーになった。
そんなハードコア小学生花子ちゃんの闘志に、マチコは火を点けた!
花子ちゃんは、素早く頭に噛み付いているマチコを引っぺがした。
そして―

マチコの頭に噛み付いた!
『 やられたら、やり返す 』
それが花子ちゃんの口癖だった。
マチコが可哀相で、止めに入った瞬間、

  『マズイ!』

と花子ちゃんは叫んで唾を吐いた。
『 サル、まっじ〜 』
攻撃しながらも、味わう余裕。マチコは既におとなしくなっていた。さすが花子ちゃんだ。

『 あんたら、何しとる!』
玄関の戸が開き、はまちょうの奥さんが、出て来た。
花子ちゃんは、すかさず、マチコを突き出し『 このサルが、私の頭を噛んだ!』と言い返した。
『 あ、そう。注射打っとるから大丈夫。』
と言って、おばさんはマチコを抱き、戸を閉めた。
注射? 何の?
言いくるめられたのは解るが、花子ちゃんより、マチコの方が心配だった。
あと、もう一つ気掛かりな事があった。


『 ねぇ、マチコ、どんな味したん?』
『 あぁ、あのクソザルね、苦かったよ!マズかった〜!』

■その後のその後のゲタ吉6-2へ

[ゲタ吉翼賛会6へ戻る]


2009 水木伝説オリジナル企画