その後のその後のゲタ吉
9
スズキキヨミ

Vol.15 「 DIVE!!! 」

 今日も夕陽がキレイだった。
家の近くにある、大きな橋越しに見る、海に沈む夕陽は絶景だ。
その橋は、大きくて汚い河に掛かっている。
隣のばーちゃんが若い頃はシジミ漁が盛んだったらしいが、今はウシガエルが盛んに繁殖している。
以前、そこで採れたばかりの新鮮な魚を食べて吐いた。
医者から『 あそこはヘドロが多いから、食べてはいけない 』と言われた。
親父が河(汚い)で亀を捕まえてきて、家で飼おうとしたが、あまりの臭さに結局、河(汚い)に返した。

数年前も、外国の水質調査の研究者がやって来て、その河(汚い)を『 世界でも希に見る汚さ。透明度は0に近い 』と評価して頂いた。
確かにいつもカーキ色だ。
わざわざ、外人呼んで調査してもらわなくても知ってる。
地元の年寄りがゴミや、生活排水を流すからだ。

中学の写生大会は、毎年この河(汚い)で行われた。
水は汚いが、周りは緑が生い茂って、鳥のさえずりが響く、絵になる場所なのだ。
中3の写生大会の時、写生している向こう岸に男が走って来た。
誰かに追われていた。
追いかけている方は黒っぽい服を着ていて、何かわめいていた。
追われている方は、俺達が対岸で見ている前で……

ばしゃーん!!

河(汚い)に向かって思いっ切りダイブした!
のどかに河(汚い)に浮いていた水鳥達がけたたましい声を上げて、一斉に飛び立った。

追いかけていた人は、お巡りさんだった。
河(汚い)に向かって叫んでいた。
ダイブした男は、沈んだまま、一度も浮かんでこない。
小さい頃から、ばーちゃんに『あそこは汚いから、落ちたら浮かび上がらない』と聞かされていた。
だから、その河(汚い)は自殺者も多かった。

パトカーや消防車、救急車がサイレンをけたたましく鳴らし集まって来た頃、先生達はヒステリックに、 写生大会は中止!解散!と指示を出しながら、俺達に帰る準備をさせた。

夕方のニュースで、河(汚い)にダイブした男は、下着ドロをしているところを、お巡りさんに見つかり走って逃げて、 そのまま河(汚い)に飛び込み、亡くなったと知った。

あの河(汚い)は…。
昔、酔っ払いながら犬の散歩をした親父が、よくゲロを吐いた河(汚い)だ。

■その後のその後のゲタ吉9-2へ

[ゲタ吉翼賛会9へ戻る]


2009 水木伝説オリジナル企画