|
Vol.18 「 アパラチャノモゲータ! 」
会社の駐車場に雀の大群がいた。
ウチの近所も夏の終わりになると、ムクドリの大群に 悩まされている。
近所の電線にシャレにならん量の鳥達が、ガ行を中心とした鳴き声を上げながら、光の三原色をオールカバーしたフンを落としまくる。
落下音も、ハンパじゃなく、部屋にいると夕立か?と間違う程だ。
家、車、はもちろん、犬や子供、井戸端会議のおばちゃん達、ゆっくりしか歩けない老人が、光の三原色に色分けされた、鮮やかなフンの被害にあい、現代アートのようになる。
その光景は、まさにヒッチコックの『 鳥 』のような凄まじさ。
それもそのはず、俺の住んでいる町は、以前『 野鳥天国 』と言われていた。
夏の終わりの夕方になると、三原色のギャング、ムクドリの奴らがやってきて、ご町内を現代アートに変える。
おばちゃん達は、困っていた。
そこに救世主が現れた!
近所の工場で働いている、中国人3人組の内の一人がそうだ。
彼等は、働いている工場の社長が所有している一軒家で共同生活をしている。
たまに、社長夫人が、その家を掃除しに行く。
ある日、夫人が掃除に行ったら、玄関に大きなタライがあった。黒い水が動いているように見えたと言う。
近づいてみたら、大量の蛇がタライの中を動いて絡み合っていた。
彼等は、母国への仕送りをした残りで生活しなければならない。
遠く坂の多い、工場までの道のりを、暑い日も雪の日もチャリで通って節約している。
日本は、物価が高く、動物性タンパク質は、とうてい彼等には買えない。
そこで彼等は、雑木林で蛇を捕まえて食用にしていたのだ。
インディー・ジョーンズみたいな体験をした夫人は、鬱病になり病院に通っている。
そんな彼等の内の一人が何故、ご町内の救世主になったか。
その日も、三原色のギャングが、町中を現代アートに塗り替えていた。
そこへ、仕事帰りの中国の3人組が、いつものようにデカい声で話しながら、チャリでやって来た。
彼等がギャング達の下に突入する手前…、
3人の内の一人が、右手の人差し指を、ギャング達に向け、何か呪文のようなものを叫んだ!
多分、中国語で聞き取れなかったので、ここでは『 アパラチャノモゲータ!』とする。
彼が、アパラチャノモゲータ!と叫んだ瞬間…
ギャング達は一斉に、飛び立った!
そして、その日はもう戻って来なかった。
その奇跡の瞬間を見た、おかん達は感動と感謝と感激に包まれた。
これを『 ババァの3感 』と言う。
その後、何日かギャング達は、彼の『 アパラチャノモゲータ!』に追い立てられ、もうご町内には来なくなった。
それから毎年、ご町内がギャング達に襲われる季節には『 アパラチャノモゲータ!』の呪文で被害を最小限に防いでくれた。
そして、彼は救世主になった。
しかし、彼は自分が、おばちゃん達から、ヨン様を見るような熱い視線を送られている事に気付いていなかった。
今年の夏 ― 。
海で一人の中国人が亡くなったとのニュースがテレビで流れた。
亡くなったのは、救世主だった。
今年、救世主を失った、ご町内はギャング達に襲われ、光の三原色の洗礼を受け、現代アートに変わった。
町はまた、『 野鳥天国 』になった。
家の前を通り過ぎる、デカい声の中国語は2人分しか聞こえなくなった。
ふと『 河童の三平 』が読みたくなった。
シャンペイ!!!
|
|
|