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Vol.23 「 港のヨーコ 」
怪奇大学生の頃、レンタルビデオ店で1日だけバイトした事がある。
1日…。
たった、1日で辞めた。
俺の働く時間帯は夜間。
その時間帯は、大学生のバイトで占めていた。
初日、そのバイト達全員に俺の誤情報が流れていた。
『 田中君てバンドやってるんですってね!』
質問じゃなく、決め付けた言い切り方。
金髪=バンドマン。
そんな時代だった。
『 いいえ 』
死んだ目で、各人にいちいち答えた。
大学生のバイト達でリーダーシップをとっているのが、木下君だった。
レジでPCを操作し、みんなに指示を出していた。
バイトの人数の割りには、店は暇だった。
その日、バイトは俺と木下君を含めて4人。
一人は、変なパーマの女子。
もう一人は男子でこの女子を好きそうな感じだ。
変パーマも心得ており、アゴでこき使っている。
AVが返却されたら『 いや〜ん。えっちなやつ〜 』
と叫んでいた。
ビデオテープなので、いやらしくもなんともない。
えっちになるのは、デッキに入れて再生してからだ。
えっちだと騒ぐのは、気が早すぎる。
あまりにも暇で、だらけはじめた時−。
一人の女子が入ってきた。
この店のバイトで、今日は出番ではないが遊びに来たそうだ。
水木しげるのマンガの、マボロシちゃんに似ている。
顔も沢山のニキビで赤くなっており、余計マボロシちゃんだった。
変パーマに話があるらしい。
2人は、俺と木下君のすぐ後ろで話しはじめた。
客のいない店内。
話は嫌でも、俺達の耳に入ってくる。
今日、マボロシちゃんは告った男にフラれたそうだ。
それを聞いて、変パーマは泣き出した。
マボロシちゃんは
『 こら!ヨーコ!あたしが泣いてないのに、お前が泣くな〜!』
と言った。
そのわざとらしい言い方は、とんねるずの石橋が、よくやる女の口調を連想させた。
変パーマはヨーコという名前らしい。
しかし、友達からフラれた、と聞いただけでいきなり泣けるもんか?
信じられなかった。
木下君は俺に
『 嘘泣き 』
と言ってきた。
マボロシちゃんは、ヨーコを泣き止ませようとしている内に、自分まで泣いてしまった。
ヨーコの友情に感動したのと、フラれた可哀想な自分に泣けてきたのだろう。
2人でしこたま泣き出した。
明らかに俺達を意識して、ドラマの子役のように両手を目に当てて泣いている。
木下君と目が合った。
2人で吹き出した。
マボロシちゃんは
『 ヨーコ、あたしキレイになってやる!
あいつを見返してやる!』
とTBCみたいな事を言い出した。
俺と木下君は笑いで震え、立っているのもやっとで、もう限界ギリギリだった。
マボロシちゃんは、どんなに広い心で見てもキレイになれないだろう。
でも素直ないい子だと思う。
それだけに、ヨーコのウソ泣きを見抜けないのが哀れだった。
これが俺が、レンタルビデオ店をたった1日で辞めた理由だ。
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