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Vol.33 「 ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ! 」
ビースティーボーイズ来日公演の時の話だ。
チケットが取れた俺は浮かれていた。
当時はビースティーズに夢中だった。
毎日ビースティーズの音楽を聴き、ビデオを見ていた。
若かったせいもあり、自分もマイクDみたいになれると思い込んでいた。
ビースティーズの着ていた服やスニーカーを真似して、ビースティーズの好きなもの全部を好きになろうとしていた。
ビースティーズを見に行く日、俺はX−LARGEに身を包み、友人の迎えを待っていた。
時間ちょうどにやって来た友人は、玄関先でウチのおかんに捕まった。
ヤバい!素人がおかんに捕まると、自力では逃げられない。
今、助けに行くぞ!
俺はダッシュで階段を駆け下り、友人を掴み、車に乗り込んだ。
おかんは叫びながら、漬け物が入ったタッパを待って近づいて来る!
『早く出して!』
アメリカのサスペンス映画さながらに、おかんの漬け物攻撃から逃げた後、気になる事を聞いてみた。
『おかん、何言ってた?』
『どこに行くの?って。ゲタ吉は何も言わないからって』
言ったとしても聞いてないだろう。
『そんで?』
『ビースティーズ見に行くって。
いいねぇ!って言ってたよ。
おかん、ビースティーズ知ってんだ〜』
知るわきゃない。
『あの、漬け物は?』
『いらんって言ったのに、持ってけって』
ま、いーか。
そのまま、おかんの事は忘れた。
ビースティーズが出てきた途端に、テンションはピークに達した。
マイクD、意外とでけぇ!
クラブチッタは床が揺れてるのか?と思う程に盛り上がって、記憶が飛んでしまった。
翌日、昼間から部屋で寝てると、近所のオバちゃん達の会話が外から聞こえた。
『田中さんちのゲタ吉ちゃん、ビートルズ見に行ったんだって!』
『アラー!ハイカラやねぇ!』
『ねぇ!ビートルズって生きてるの?誰か死んでなかった?』
『そうだった?ベートーベンなら死んだけど』
『そりゃ、あんた、ベートーベンは死んでるわ〜。アレ、私らの若い時からの人だし〜』
『ハハハハハ!』
う、嘘〜ん…。
ビートルズを好きだった事は、生まれてこのかた、1度も無いし、まともに聞いた事も無い。
試しにおかんに聞いてみた。
『俺が昨日、何を見に行ったか知ってる?』
意外な返事が、自信満々に返ってきた。
『知ってるよ!
ずうとるび!』
……。
更に発酵させている…。
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