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Vol.34 「 2010年宇宙の旅 」
数年前から、我が家のリビングのテレビには『勝手に観光協会』と『ウサビッチ』がヘビロテで流れている。
どちらも、おかんのお気に入りだ。
ウチのおかんは、脳内に宇宙を持っている。
それは果てしなく広く、また謎に包まれているのだ。
たった今でも星が生まれ、また星が消えていっている。
宇宙の根源、おかんの琴線に、みうらじゅんはカッチリとはまった。
観光協会に、自分が行った場所が出ると『ここ、行った!』と喜ぶ。
しかし、前述したように、このDVDは何年も見続けている。
なので同じシーンに、同じコメントを飽きもせずに何年も繰り返しているのだ。
『ウサビッチ』も同様だ。
ずーっと見ていた結果、これはサブリミナル効果に入るのか分からないが、おかんはプーチンとキレネンコみたいなウサギがいる!と
思い込みはじめた。
ランプ会のメンバーから『畑に野ウサギが出た。』と聞くやいなや、『何色?』と聞く。
『え?野ウサギだから、茶色だけど…。』と返ってくると、『なぁ〜んや!茶色かぁ!』と吐き捨てた。
『やっぱりウサギは、生のニンジンなんか食わんわな!』
ニンジンステーキを食べるキレネンコを見て、確信したように頷きながら言い切る、宇宙の創造主。
挙げ句の果てに
『ピンク色のウサギは体が丈夫!飼うなら、ピンクのウサギがいいやろう』
と言い出した。
『おかん!ウサギは弱い動物だよ!アニメみたいに、シャワーはさせれないし、耳を結んだり、安全ピンなんか刺したらダメだよ!
ウサギの耳は弱いんだよ!』
動物を愛する俺は、必死に何度も訴えた。
『分かってるって!しつこいな!ただ、体が丈夫やって言っただけやろ!』
むぅ…。
どこまで混同しているのか?
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宇宙にはブラックホールが生じていて、推測が不可能だった。
そして、今年のお盆。
おかんの、失速した思い込みは、遂に沸騰点に達した。
ビッグバンの到来だ!
リビングに並んだプーチンとキレネンコのぬいぐるみに、物足りなさを感じたおかんは、理想のウサギを求めてペットショップを回った。
何しろ、ぬいぐるみなのでコサックも踊らないし、『ハッ!』とも言わない。
『やっぱ、本物のウサギじゃないとな!』
嬉々として、出掛ける準備をしている。
必死に止める俺におかんは笑顔で
『あんたもズック集めてんだから、ちょうどいいね!』
ズックって!
コレクションのエア・ジョーダンをズック呼ばわりし、俺にMAXのダメージを与えてから、おかんはペットショップに向かった。
当然、おかんの求めるピンクのウサギは存在しない。
落胆して帰ったおかんは、俺にこう言った。
『やっぱり、丈夫なウサギは日本にいないね!
ウサギはロシアじゃなきゃね!』
宇宙は不滅だ。
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