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Vol.36 「 マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ 」
今日、俺はついてない。
昨夜から寝ないで、マシンにCDを取り込む作業をし、車のオイル交換に行ってきて、施設に入所している、
近所のばーちゃんの面会に行って来た。
余談だが、iPodでランシドを聴きながら、老人施設を歩くと老人達の髪がパンクに見える。
災難が起こったのは、その帰り道だ。
iPodに繋いでいたFMトランスミッターのコードを、タバコで焼いてしまった。
このまま使うのは怖いので、車をそのまま、オートバッコスへと走らせた。
FMトランスミッターの料金を払う。
予想外の出費だ。
車に戻り、iPodを繋げて気をよくしていると、タバコの在庫が少なくなっている事に気付いた。
俺の吸っているタバコは、コンビニでは売っていない。
すぐに、いつも買う店に向かった。
…店は定休日だった。
俺はタバコの量を減らす事が出来ない。
仕方ないので、コンビニで、吸えるタバコを買う事にした。
昔吸ってたラッキーストライクの軽いやつを3箱買った。
駐車場でタバコに火を点け、思い切り吸い込んだ。
…味がしない。
何だ、コレは。
軽くないのにすりゃー良かった!
普段はタバコの禁断症状が出ると、煙の出るもんなら、何でも吸いたい!と思っていた。
花火でも口にくわえそうな俺だった。
でも今日、考えが変わった。
やはり、愛飲しているタバコじゃないとダメだ!
アークロイヤル!
何てウマいタバコなんだ!
軽いタバコは、俺には向いていないな。
同乗者が、まだコンビニで買い物をしていたので駐車場で待っていた。
毎朝見かける、フレンチブルドッグを連れたおっちゃんがやって来た。
可愛い黒のフレンチブル。
横断歩道で信号待ちをして、信号が変わると、おっちゃんの顔を見上げてアイコンタクトを取り、
ちょこちょこと俺の車の前を歩いて行く愛らしい姿に毎朝ヤラれていた。
そいつが今、手の届く所にやって来た。
『可愛いっスね!』
俺は、おっちゃんに言いながら、フレンチブルを撫でた。
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耳の裏を掻いてやると、フレンチブルは気持ち良さそうに目を閉じた。
『全然、怖がらんな〜。好きな人は犬も分かるんだね〜』
おっちゃんが俺に話かけたが、返事もせずに、フレンチブルのセルジュ・ゲーンズブール(想像)を撫で続けた。
まだ若いらしく、毛並みが凄く良くて気持ちいい。
肉球もぷりぷりしている。
ゲーンズブール(想像)は、俺に腹を見せて寝っころがっている。
『動物の目は黒目ばっかりだから、可愛いんだな!』
ゲーンズブール(想像)の腹を撫でながら独り言を言っていた。
俺が昔飼っていたブルドッグはUK出身の大型犬だった。
このフレンチブルドッグは、UKのパンク野郎とは比べものにならないくらいに小さく、抱っこも出来る。
俺は、おっちゃんからゲーンズブール(想像)のリードを奪い、パリのエスプリ漂う、
フレンチポップなボディを抱きかかえて喜んでいた。
『田中さん、知り合いですかぁ?』とマヌケな声を出しながら、同乗者がコンビニから出て来た。
『いや、可愛いくてつい…』
『田中さ〜ん、も〜、犬にラブどっきゅんですね。店から見えてましたよ〜』
…ラ、ラブどっきゅん?
何ソレ?
ちげーよ!バカ!愛だよ、愛!!!
無償の愛だよ!
動物に対する、俺のはな!
アガペーなんだよ!
ラブどっきゅんだぁ?
そんなチャラい表現じゃ、現せられないくらい、高尚なもんなんだよ!
熱弁したところで、若い女なんかに俺のアガペーが伝わるワケも無く、虚しい気持ちで車に乗った。
めちゃくちゃ腹が減っていた。
最近、肉切れだったので、焼き肉屋に向かう事にした。
『このまんまじゃ、目の前に牛が歩いてたら、かぶりつきそうだよ!』
『田中さ〜ん。動物にはアガペーだったんじゃないんですかぁ?』
………。
返す言葉も無く、撃沈した。
今日、俺はついてない。
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